広島地裁で3月14日に行われた被告人質問を傍聴した。
被告人はがっしり体型、黒の上下にマスク。被告人質問が始まる際にマスクを取る仕草をしたが裁判長が「マスクはしたままでいいですよ」とそのまま開始。
検察官の横の席には遺族の両親が遮蔽もなしで座ってた。この日だけしか傍聴していないけど本当に遺族の方は強いと思った。。
事実関係に争いはなく、量刑を裁判員がどう判断するか?
ー事件で逮捕されて今日の公判までどんな気持ちで過ごしていました?
自分は事件のことを思い出したくなくて考えんように生きてきて、思い出せんこともあって、思い出せる限りの事を...思い出そうと...思っていました(涙)、思い出せる限り正直に話したい。自分勝手な都合で事件を起こし申し訳ないと思っている(涙)
込み上げてくるような涙声とでっかい声が法廷に響く。
鹿嶋学は下関に生まれた。
父親とは血の繋がりがなく、母親が父親と交際中に他の男と浮気して出来た子供だった。
小学生の頃は自称「大人しいけどわんぱくな子」でスプレーでそこらへんに落書きしたり、友達を本で殴ったり、ニワトリ小屋にいたずらをして「大ごとになった」。
中学2年生の夏に宇部へ引っ越し陸上部や園芸部に所属していたが部活に殆ど顔も出すこともなかった。高校は機械科に進学し、ここでも陸上部に所属した。
本人的には剣道をしたかったみたいだが、喘息持ちのために体力をつけろ!陸上部に入れ!と父親に言われたという。
高校卒業後は萩市にあるアルミ会社へ就職。
寮生活になりゲームが好き放題できてエッチなビデオもたくさん見れるようになった。8時からが勤務時間だが、勤務開始に間に合うよう機械を動かさなきゃダメで、6時出勤、遅い日は20時ごろ帰宅。
職場が目の前なので夜中に呼び出されたり休日出勤もあった。怪我をした時は「なんしよるんかー!」と怒鳴れ自身の心配は一切してくれず「なんて人情のない会社なんだ」と不満が募っていった。
同期入社が殆ど辞めており外国人が多く働いていたことで職場での口数は少なかった。寮の部屋では「一度もゴミを出したことない」と3年半ゴミを溜め続けて足の踏み場もなかった。
初めての寝坊
2004年10月4日、機械の音で目が覚めると朝7時だった。遅刻にはならないが「暗黙の了解の出勤時間」よりは遅れており完全に寝坊だった。ヤバイ!怒られる!とベッドでぼーっとしていたら段々と会社へ行く事が嫌になっていった。携帯・財布・リュック・CDプレイヤーを持ち「もう戻らない」と決心して原付で寮を出た。
幼い頃に銭湯で自転車で東京へ向かう人と出会い父親が自宅に泊めさせた事があった。そんな経験から「東京に行こう」と決心。ホームセンターで野宿に必要だろうとナイフ、とりあえず東の方角が分かればと方位磁石も購入した。ATMで全財産の20万を下ろし宇部の友人宅へ向かった。
事件当日
2004年10月5日、友人宅で6時頃に起床。もう会う事もない、と餞別に5万円渡した。
昨日に引き続き方位磁石のみで東に向かった。宇部市内を走行していると「学!」と横付けの車から声をかけられたので見てみると両親だった。偶然にも両親と出くわした鹿嶋は逃げるようにその場を去り「もう戻らない」と再び決心して川へ携帯を投げ捨てた。
当時ラジオCDを聴きながら広島へ入ると下校中の女子高生が目に入ってきた。一気にハッとし「女子高生をレイプしたい」という気持ちが高ぶり、周囲を物色し始める。セックスの経験がなくしてみたいという気持ちともう捕まっても何でもいいという自暴自棄、「犯罪への抵抗が一切なかった」。
信号で止まっている間に自宅へ入っていく女子高生の後ろ姿を見た。敷地内に車がなく、親がいないんじゃないかと考えた。これが被害者の女子高生だった。
近所のコンビニでマスクと白い手袋(タクシー運転手がつけるようなもの)を購入した。人相を隠すのと指紋を残さない為だった。
近くの敷地に原付を止め遠目から現場を見て人の気配がないか探った。結局マスクと手袋は逆に目立つと思い装着しなかった。ナイフをポケットに忍ばせて女子高生のものと思われる靴がある建物へ侵入した。
ナイフを取り出して忍び足で階段を登りきると扉があり顔を覗かせたら寝転んでいた女子高生と目が合った。
部屋に入って「動くな」とナイフを向けた。「他に誰かおるか」「脱げ!」と言った途端に女子高生は鹿嶋を走り抜け、後を追ったところで階段の方からゴトゴト!と音がした。階段を見下ろすと被害者が倒れていた。
「まだレイプが出来る」と2階に持ち運ぼうとしたが抵抗されて押し合いのような形になった。「なんで逃げるんや!!」と怒りが達しナイフで刺した。
会社でうまくいってない不満や家族、なんでこんな自分なのか、自分の思い通りにならない事を全て女子高生に八つ当たりをし、肩だけを動かすような形で「くそ!」「くそ!」と叫びながら何度も何度も刺した。
首を刺した後に外から「大丈夫?」と声が聞こえ向こうに人がいることに驚きつつも刺して逃げる事を考えた。
扉の向こうには女子高生の祖母と少し後ろに女子高生の妹がおり咄嗟に祖母の方をナイフで刺した。刺した後に妹と目が合い逃げ出したので後を追った。「追いついたら刺そうと思った」。妹に追いつけず途中で断念、「それよりも逃げなければ」と原付に飛び乗った。
妹は近くの園芸店に飛び込み無事、祖母は重体だったが後日回復、女子高生は死亡した。
東京方面に向かい途中のホームセンターで両手や顔についた血を洗った。上着の血は取れず川へ投げ捨てた。3日間後悔の念でいっぱいになり、寝ずに食べずに東京へ向かった。東京へ向かう途中もレイプ願望を達成したいという気持ちは残っていた。到着してもやりたい事は特になく原付で適当に走っていたら金が尽きたので選別として5万渡した友達へ連絡し振込してもらいまっすぐ宇部へ帰った。
宇部の実家へ戻った時に父親は黙って抱きしめたという。
平成16年頃から30年まで土木会社で働いた。社長の年が近く飲み会にも誘ってくれたり奢ってくれたりして「こんな...自分のために,,こういう性格なのにろくに話もせんのに親身になってくれた(涙)」。
一方、レイプ物のビデオをよく鑑賞。「(事件では)実際にレイプが達成できた訳ではないので抵抗はなかった」。シャイなのでナンパも出来ないし風俗にも行けない。逮捕されるまで童貞だった。凶器のナイフは引き出しにしまい「責任感から」保管していた。
事件のことは「思い出さんようにしていた」と何度も答えながら一度パソコンで「未解決・広島の女子高生」という記事の見出しだけをみて女子高生が死亡した事を知った。指名手配のポスターも駅で見かけたが仕事中のこともあり見て見ぬ振りして仕事に没頭するようにした。
趣味のオンラインゲームでネット上の友達と銃で撃ち合う対戦を夜遅くまで楽しんでいた。
「部下が横着な態度を取った」ためにブチ切れ、暴行罪で任意聴取を受ける。DNA型や指紋が一致したため朝一番で逮捕され「ホッとした」。自首は全く考えておらず捕まらなかったことの甘えから逮捕されるかもという不安はなかった。人を殺したら捕まることは当然なので恐怖はなかった。
逮捕後、遺族に手紙を書いたが受け取ってもらえなかった。一部抜粋
「私の見た手紙など見てくれないと思うが書きます。ひどく大変な思いをさせ申し訳ございませんでした。なんで死ねなかったのか?ナイフを持っていたのか?会社を辞めれば良かっただけなのに。誠意を持って全てを話す事が自分に出来ること。旅の終着点は死ぬ事か警察に捕まることかを考えていた。思い出せる限り、全て書きます。」以降は会社で寝坊したことや事件当日のことなどが詳細に書かれていた。
「遺族の方へ、自分勝手な行いで大切な家族の命を奪い、苦しい、悔しい思いをさせ、なんであの時死ねなかったのか、死ぬ事も覚悟しとったのに、そういう風に考えて申し訳ない気持ちでいっぱいです。金銭的な賠償も出来ていないが、刑務所で勤めて微々たるものですがしっかり償っていきたい。」
事件について金銭を払うことや正直に話すこと以外で何か償うこととして「どうしたらええか分からんのです。取り返しのつかん事をしてしもうたから分からんのです。」
弁護士になにか最後に言いたいことはないかと問われ涙混じりの大きい声で感情のピークに達した感じで話し始めた。
「私は、…取り返しのつかんことをしてしまい……、自分は死刑がふさわしいと思っております。……大変………申し訳ございませんでしたッッ……」ハァハァと荒い呼吸をあげながら肩を震わせピンと張り詰めた法廷で懴悔した。
寝坊をしたことですぐに逃げ出す白か黒かの極端な思考、いきあたりばったりな犯行、東京まで原付で行くタフさ、自分の性格を理解している被告人。
傍聴して気になった事。
寮でゴミを一度も出さずゴキ屋敷になった部屋、面倒くさがりなのか一体なんなのか?
マスクと手袋を購入したが結局使用しなかった事。近所のコンビニで購入していたのだからカメラに映像は残っていなかったのだろうか?同じ時間帯に怪しい2点セットを購入しているのだから浮上してこなかったのだろうか?実際に妹さんが見た被告はマスクと手袋をしていなかったので重要視しなかったのだろうか?
被害者が亡くなったのは検索してから知ったという事だったがそれまで本当に目にしなかったか?いくらテレビや新聞を見ないとは言え広島に住んでいないとは言え隣の山口なら手配ポスターも多く目にしたろうと思う。
被害者を殺害し東京へ向かう中でも誰かをレイプしようと考えていたこと。人を殺しても尚、収まらなかった願望、逮捕されるまでセンズリだけで抑えれていたのか?
何度も連呼していた「あの時死ねさえすれば」。当時の様子を聞いた中で実際に行動を起こしていないから本当に考えていたのか?と違和感がある。嫌な事があれば極端な思考になる、というところがこの発言からも伺える。
反省していると感じた。今まで見た被告人の中で反省してるなあと思った2人目だった。
被害者が階段を上手く降りれていたら?あと3分帰宅するのが遅かったら?寝坊しなかったら?信号でとまらなかったら?....、、
検察の求刑は無期懲役。何の落ち度もない女子高生を自分の欲と鬱憤晴らしのためだけに殺害し、弱い祖母まで殺害しても構わないと重体にまで陥らせ、追いついていたら殺していた、と恐怖でいっぱいだったろう妹、突然家族を失ったご両親、同級生、事件後は何事もなく暮らしたまたま起きた暴行事件で発覚した…と考えると安すぎる求刑、被告が正直に話さずにいたら死刑求刑は間違いなかったと思う。
3月18日、広島地裁は無期懲役の判決を出した。遺族はもう裁判を終わりしたい、控訴しないで欲しいとコメントしていた。被告は控訴しないと思う。
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